SALT

日記

服とか

「別にとやかく文句言うわけじゃないけどさ、いちおうネクタイくらい締めて出社してくれよ」という社風なのでいちおうネクタイを締めて出社している。現場でネクタイが役に立ったことはまだ一度もない。首とかくくりたいときにさっと出せて便利かな?体重かけるからにはもうちょっと強度がほしいところだけど。リスカしちゃった女性の手首をネクタイでさっと止血できたら紳士的かな?

で、Tシャツやパーカーの上からネクタイを締める訳にもいかないので、当然ワイシャツも持っている。ユニクロのノンアイロンのものを3枚。そこは5枚買っておけばいいじゃんみたいな自分の声を俺はこの3年ちかく無視し続けている。ノンアイロンシャツはアイロンをかけなくていいので、洗濯をきちんと回せれば平日5日間でも3枚で事足りる。こういう納期ギリギリで回している現場みたいな状況は一個何かが崩れると簡単に空中分解することも俺はわかっている。わかっちゃいるけどやめられない。俺の神経の受容体はもうヒリついていないと生を感じられなくなっているんだと思う。どうせならもっとマシなことでヒリついていたい。

 

仕事用の服について、制約がある中でも気に入ったものを選びたいと思っていた時期があって、ワイシャツにしてもデパートに行ってみたり国産オンラインストアの雰囲気が良さげなドレスシャツを買ったりしていた。しかしシャツが変わることで仕事の能率が上がるわけでもなければ、モテるようになるわけでもなく、なんの変化もなかった。ちょこっと気分が上がるなんて変化のうちに入らねえよ。そもそも化繊の吊るしのスーツやアスファルト補修材の油が染み付いた作業着に立派なシャツを合わせる事自体が間違っていたんだろうな。

仕事による服の制約は加点法ではなく減点法で、例えば作業着が固定されているなら他のアイテムもその作業着のレベルに合わせていくべきなのでは、と今では思う。作業着でもおしゃれがしたい!CAM MAKE TOKYO!っつっていいもの着たって作業着がバランスをぶち壊していく。「別にとやかく文句言うわけじゃないけどさ、いちおう社会人らしく匿名性があって悪目立ちしない格好してくれよ」という社風なので、仕事ができるけど服とかはいい加減な人に合わせてラインが引かれていき、「別にとやかく文句言うわけじゃないけどさ」の風潮はより強固なものになる。

 

かつては、仕事の時間といえど自分の時間、と思って好きな服を吟味して選んでいたが、今ではすっかり「仕事着なんてこいつでやっつけておけばいいか」という考えの方がしっくりくる。ユニクロで思考停止しておこう、色落ちしてきたしディッキーズを同じサイズ同じ色で買い直そう、スニーカーのソールの溝がなくなっちゃったけど気にしないでおこう、作業着は味とかってレベルじゃなく汚れているけどなんにも言われてないからそのままにしておこう…だって周りがそうだし。

こうして俺の残り時間はまた削られていく。みんなでいっしょに幸せにはなれないけど、みんなでいっしょに不幸にはなれるね。

別れたすぎる

『花束みたいな恋をした』をしばらく前に見てからこっち、ずっと「別れて〜」と思っている。より正確に言えば、花束みたいな恋をした的な別れ方をしたい、と思っている。ラ・ラ・ランドみたいな別れ方とはちょっと違う。理想的すぎて地に足がついてない。ブルーバレンタインとかマリッジストーリーみたいな別れ方は嫌な気がする。離婚だし。調停とか親権とかは重いしよくわかんねー。クレイマー・クレイマーなら離婚だけどちょっといいかも。

人と人とが恋仲になった上で双方合意の元で別れるってすげーうらやましいよ。というかお互いが「もう別れだな」ってなってるってそれってお前らもう付き合っちゃえよって感じだよね。で、うまくいかないのもわかりきってるし、このへんで手打ちと致しましょうか…っていう引き際の良さとかやっぱかっけーと思うんだよね。大人だね。付き合った人が多いってよりも一人と長いこと付き合って破綻させずに別れたってほうがどうやってんのか興味あるね。

人間いち個体について全然わかんないままの別れってしょうもなすぎるし、「全て理解した」みたいな場合は多分細かいところとかが見えてないで言ってるんだろうけど、ある程度わかるところとわからないところと見えてきた上で「あーこれ先ねえな」っていう瞬間って感じたすぎるんだが?喧嘩するのもだるいから会話は温度が低くなりがちなんだけど、逆にそれが傍から見たら落ち着いた未来のおしどり夫婦に見えたりするんだが?しかたねえからプレゼントとか買ったりするんだけど、向こうの表情は「あーそれ昔好きだったけど今全然なやつじゃんね、こいつやっぱり”あの頃”に拘泥してんのな、まあそんなこと言ってもまた角が立つだけだから」の笑顔で感謝してるふりをされたりするんだが?別れたあとも多分恋人の趣味とか癖とか影響出まくっててなんかの拍子に「水島くんってラーメンそんなふうに食べるの?」とか言われて虚突かれ思い出しをするんだが?

とにかく誰かと長い時間かけて付き合って努力とかして向こうの理想の彼氏に限りなく近づいた上でなんかうまくいかなくなって別れたいの、俺は。シレンでクリア前ギリギリで殺されたいのよ。高く積み上がったトランプタワーには崩れてほしいのよ。カリカリに詰め上げたパワポの保存をミスって白紙に戻したいのよ。死んだ思いを抱えてニューゲームに挑んでいきたいのよ。

 

というようなことを同僚に言ったら、「俺は別れるのは二度とゴメンっすねー」と言われました。「つらいっすからねー」とのことです。

最近職場でよく白湯を飲む。常備されているポットのお湯をコップに注いで飲むだけ。インスタントコーヒーを過剰に摂取すると気持ち悪くなるし、かといってお茶を淹れるほどの根気もない。喉は渇くが冷たい飲料水なんかはトゥーマッチ。妥協と怠惰の末のポット白湯と言える。妥協と怠惰で白湯を語るなと白湯界隈の罵詈雑言を想像しながら、今日も明日も薄暗い給湯室でポットのロックを解除してヘコヘコと湯を注ぐ。

最近はマジで現場がやばく、しょっちゅう外にいる。ずさんな設計をスルーした同僚と上司に責任をおっかぶせても経験に物を言わせて殴り返されるだけなので、設計した過去の自分に粛々とブチ切れるしかない。一日のうちにだいたい二回くらいは呼び出され、三回は頭を下げ、十回は運を天に任せている。今の所は問題だらけだという点を除けば問題なくいっている。明日?そんな先のことはわからない。

そんな感じなので、白湯を注いでくだんねーメールを開封する儀でもやるかとパソコンに向かう暇もなくガラケーに着信が入り「水島くん、ここのコンクリートどうなってんの」と呼び出される。90℃のお湯が入ったコップをキーボードの横に置く。戻ってきたときに誰かがこぼしてパソコンが壊れていたら楽しいなと思うがそんなことは一度もない。現場から戻るとコップは元通りそこにある。しかし中に入っているのは白湯ではなくただの水になっている。

コップの中の液体はいつ白湯から水になったのだろう。ある時点までは白湯だったものが、急に水になったりはしないだろう。徐々に温度が下がり、体を温める白湯から元の水道水へと変化しているはずだ。それもはっきり50℃以下が水、それ以上はお湯ですよ、などといった線引きはされていない。人の胸先三寸でお湯かそうでないかが決定される。また、仮にコップの中にコーヒーが入っていれば、それは時間とともに冷めたコーヒーになる。冷めたコーヒーは顔をしかめながら飲むしかないが、白湯を経由した水道水は一切飲む気にならない。俺は流しに捨てるだろう。ただの水を。これが冷めたコーヒーを捨てるとなれば多少のもったいない気持ちもする。しかし水を流しに流すのは、食器を洗うのと何ら変わりがない。俺は食器を洗うかもしれなかった水を沸騰させてアツアツにした液体を好き好んで飲んでいることになる。なんだ白湯って?気持ち悪いな。助けてください。

チェス

ネットフリックスのクイーンズ・ギャンビットに触発されてチェスを憶え始め、無料のアプリをダウンロードして空き時間にチマチマ駒を動かすようになった。そもそも俺は盤上のゲームは苦手で、モノポリー・ウノ・麻雀・その他トランプのゲームなんかはめっぽう弱い。定石がわからず適当にゲームを進め、場当たりな対処に終始してすぐに負ける。俺の人生と一緒だね。しかしいつからか人狼ごきぶりポーカーみたいな心理と推理の要素がミックスされたボードゲームが流行り始め、そちらでは涼しい顔で嘘をついていると存外勝てたりするので、本当にいい時代になったものだとしみじみ感じている。人生のほうでは嘘をついているだけではままならなくなることばかりなので、早く人生もアップデートされてほしい。

クイーンズ・ギャンビットでは用務員のおじさんがアニャ演じる主人公の先生となっていたが、一方俺の先生であるチェスのアプリはあくまで機械的に対戦をするだけで一切の指導をしてくれない。どの手が悪かったのか、どこを改善すればいいのか、さっぱりわからないまま100戦くらいしたが、EASYモードには一回も勝つことができなかった。ルールは憶えたが、クイーンズ・ギャンビット本編で緊張感のあるシーンでも何が起きているかさっぱりわからない。ギャンビットは戦術のことらしいがどういう戦術なのか理解できていない。チェスでは駒を動かした履歴を記録し、それを読んで試合を再現するらしいが、俺が頭の中で3つほどコマを動かしたら最初に動かした駒が行方不明になってしまう。趣味でチェスをやっている人はこんな七面倒臭いことを軽々こなしているのか?定石をひとつひとつ憶えているのか?ギャンビットができるのか?何手も先を読んでいるのか?即座に何パターンもシュミレーションを行って適切な一手を出しているのか?それとも、あまり考えたくないことだが、俺は相当なマヌケなのか?

そうして打倒EASYモードを掲げてひと月ほどたった頃、スキー旅行に行く機会があり、泊まったペンションにチェス盤があった。俺は缶ビールでほろ酔いの妻を捕まえ、「おい、チェスをするぞ」と迫った。向こうは初めてチェスに触る。当然ルールすらわからない。俺はチェス盤を広げ、「これがポーンで…」などと得意げに説明する。妻はフラフラしながらなんかよくわかんないけど駒がオシャレだねみたいなことを言っていた。俺はアプリ相手にまだ一勝もできていないが、今夜チェスで初めて勝つことになるだろう。さっきルールを憶えた酔っぱらいに、だが。それでもアプリでの100敗がようやく報われると思うとどこか安堵している自分がいた。

妻には普通に負けた。「将棋と一緒じゃんね、小学生の頃しょっちゅう弟の相手をさせられてたんだけどこれがウザくて…」

盤上には俺の駒がほぼなくなっている。圧倒的に負けたのか、それとも最初に決定的なミスをしたのか、それすらわからない。

「今のゲームって一体どこが悪かったの?」

「さあ、わかんない。チェスなんか初めてやったし。でね、弟が卑怯な手ばっかり打つから…」

俺はチェス盤をさっさとしまった。アプリも消した。クイーンズ・ギャンビットもしばらく見ていない。最終回が公開されたらまた見ようと思うので教えて下さい。

2021

・3月辺りから盆栽の真似事をやりだし、樹齢数年の松を何本か駄目にした。今は小さい松と紅葉を数本ポットで育てている。

 

・しょっちゅう洗車をするようになった。倉庫にしまわれていたケルヒャーを引っ張り出し、洗剤を泡にして吹き出すアタッチメントも買った。ユーチューブにCar Detealingというジャンルがあり、汚い車を内装・外装問わずピカピカにしていく動画を眺める時間が増えた。

 

・車の事故動画は無限に見ていられるということに気づいた。国内の事故動画は、車のほんの鼻先にコツンとあたっただけなのに大袈裟な解説テロップで自分は憐れな被害者ですと喧伝して回るような退屈なものばかりだけど、アメリカとか中国とかロシアだと、ノーブレーキで正面衝突する映像ばかりで見ていて飽きない。国土の広いとおおらかになるのだろう。狭い日本では事故でさえみみっちい。

 

・曽祖父が建てたらしい倉庫の掃除が何年経っても終わらない。かつては農機具庫だったらしいけど今はゴミかどうか判断しかねるものを一旦保留する場所になっている。外壁は剥げて腐食が目立つ。古い工具が次々と見つかる。兄弟の引っ越し家財は数年放置されている。上から順に新しいものを積んでいくからいつまで経っても最下層に着手できない。いずれ中を全部カラッポにしてリビルドしたい。

 

・仕事がマジでクソって感じの状況になっている。懇意にしてもらっていた先輩は4月の異動でいなくなった。代わりに来たベテランは燃え上がっている現場よりも来年の予算のダブルチェックのほうが大事らしい。出先を書くホワイトボードの俺の欄にだけずっと「現場」とだけ書いてある。いちいち消すのが面倒だからね。

 

2021年見たもの

 

陰謀論のオシゴト

レーガンたそ萌えという気持ちで2周した。字幕と吹き替えで1周ずつした。英語字幕でもう1周する気でいる。表情とジェスチャーがリアルなアニメはすごくいいね。キャラが本当にいるみたいな気持ちになる。でも画風はシンプルなんだよな。サウスパークとかもそうなんだよな。シンプルなのにリアルなんだよな。絵がいいんだよ、絵が。あと動きな。動いてなんぼだろ、やっぱ。

 

・キャッシュトラック

ガイ・リッチー監督の前作、ジェントルメンがあまりにもガイ・リッチーな感じだったのでこんな立て続けにガイ・リッチーで大丈夫なのか?と思っていたら、どうやら原作の映画があってそのリメイクらしく、ガイ・リッチーがいい塩梅に抑えられており、ああそういえばシャーロック・ホームズとかもこれくらいのガイ・リッチーだったし、原作あったり製作がある程度お固い方がちょうどいいガイ・リッチーなんだろうなと思った。暇だし暴力の映画でも見るかという気持ちのときには満点。

 

・ドライブ・マイ・カー

めちゃくちゃ持ち上げられてるからいい映画なんだろうと思って見に行ったけど俺が見たいものではなかった。いい映画であることは伝わってきた。俺には今のところドライブ・マイ・カーを楽しめるだけの能力はない。少なくともカーチェイスのシーンはなかった。

 

・ベターコールソウル

ネットフリックス限定コンテンツとしてほぼ最初の方に公開されてすぐに見て、なんか本編と違って銃もメスもギャングもあんまり出てこなくてつまんねーなと思ってしばらく見てなかったけど、来年最終シーズンだっていうことで通してみたら超おもしろかった。人がドツボにはまっていくのを見て呼吸が浅くなるエンタメってなんなんだ。

 

スーサイド・スクワッド

特に言うことはないけど良かった。

 

・ミッチェル家とマシンの反乱

特に言うことはないけど良かった。

 

・ファーザー

認知症の父とのつらくとも暖かな日々…みたいな内容だと思っていたけど体験型ホラーだった。演出が超クールでキレキレ。

 

・シカゴ7裁判

特に言うことはないけど良かった。

 

・オッドタクシー

良かった。P氏とかMeteorの兄貴とか関わってるしもともと期待してたけど、こんな絵柄でクライムものなのかい、しかもかなり話題になってて本当に良かったねという気持ち。まあおもしろかったもんな。”他人に世界がどう見えてるかなんか全然わからない”というテーマがイースターエッグにも周到に盛り込まれていて、すげえなあと思った。

 

あとなんかデューンとかヴェノムの続編とかアメリカンユートピアとかいろいろ見たような気もするけどあんまり憶えてない。