SALT

日記

イケメンになりたい女

男ばかり三人で飲んでいたとき、俺以外の二人が「愛がほしい、人肌が恋しい」などと騒ぎ出し、「もうマッチングアプリしか勝たん」と二人同時にタップルをダウンロードしていた。片方は2ヶ月間一切いいねがつかなかったが、懸命なスワイプの結果ようやくマッチした相手のために一時間弱かけて金沢まで赴いたところ「ビジネスに興味はない?」をくらったことがきっかけで3ヶ月の利用料金を損切りするはこびとなった。もう片方は1日に3,4件のペースでマッチしていき、最初こそ顔もほころんでいたものの、メッセージ返信のために次第に寝不足になり、毎週末土日全部別の人とのデートがかさみあっという間に金欠になったが「ろくな女がいない」と特に成果もなくこちらも3ヶ月での損切りと相成った。幸せの形はみな一様だが不幸の形というのは人の数だけ存在するんだね。

 

昔から「イケメンになって女性からちやほやされたい」という女性が定期的に現れる。生まれ変わったら顔がよくて上背の高い男になって、かわいい女の子からちやほやされたい、と彼女らは言う。彼女らはだいたいモテていそうで、なんなら男を狂わせたような経験の一つ二つもありそうな雰囲気を漂わせている。ある程度は異性から好意の目で見られているのに、なぜ彼女らはジェンダーをまたいだ上でさらにモテようとしているのか、俺の中では長い間謎だった。

少し前に女性側のマッチングアプリを見る機会があった。その子のアプリが通知するのは数十件の男性からのアプローチ。ズラッと並んだ人の顔を一通りスクロールしてみても、なんとなく全部同じ顔に見えるし、どれもこれもジャガイモのような感触しか残らない。「一人ひとりしっかり見てくとたまに良さそうな人はいるけどそんなん探すのダルいんよね」と言って彼女はその場でアプリを消した。

イケメンになりたい女はイケメンになればきれいな女の子からだけチヤホヤされると思っているのだろうか。彼女らからすれば男になってしまえば数十件のジャガイモからマシなものを選び出す作業はなくなり、自分が選り好みできるようになると思っているのかもしれない。なぜなら彼女らの中では恋愛というものは男から行き、女は待つものだから。かつ、上背の高いイケメンならきれいな女の子にのみ焦点を絞ればきれいな女の子からだけチヤホヤされるので、こんな楽なことはない。ジャガイモの選別作業はもうおしまい。アプリ疲れからは解放される。

しかしどうもアプリで1日3,4件のペースでマッチしていてもうまくいかないときはうまくいかないらしい。イケメンになればあらゆる問題が解決するとは限らない。かといってジャガイモの末路は「ビジネス興味ない?」である。どこに行っても地獄な気がするが平気な顔で地獄を謳歌してるやつもいる。男なら幸せになろうなどと思うな。男なら死ねい!